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第34話「耳鼻咽喉科疾病と煙草の害」
 私の学生時代はハリウッド映画の最盛期であった。今のように多様な娯楽がなかったせいだろう。私が今でも忘れることの出来ない思い出の名画は、ハンフリーポガード主演のカサブランカであったろうか。格好良くタバコをくわえるポガードの姿に当時の若者は胸を躍らせた。私もその一人だった。然し世の中は変わった。映画は最近見た事がないので知らないが、テレビドラマでも喫煙場面はまれになった。最近の私はテレビ等で喫煙場面をみると嫌悪感を感じる。健康管理にたずさわっている医師としての本能だろう。
“喫煙は健康に悪”、この文言は今や世界の常識だ。
我が神奈川県は全国に先がけて、公共施設における受動喫煙防止条例を2009年に公布し、翌2010年に施行した。受動喫煙防止条例、禁煙条例ともいう。
 

 
前置きはこのくらいにして、何故、”喫煙が悪“なのか、耳鼻咽喉科領域の疾病からみた、喫煙の弊害について述べる。
タバコ煙には200種類の有害物質と60種類の発癌性物質が含まれているという。
耳鼻咽喉科疾患とタバコ毒の関連性は強い。
鼻腔、副鼻腔の癌の代表は上顎癌だが、喫煙者ではその発生率が非喫煙者の3倍、40本以上の喫煙者だと実に4倍だという。発症している鼻腔・副鼻腔癌の53%は喫煙によるものと推定されている。
又、舌癌と喫煙との関係はほぼ確定的だ。私が慶応大学医学部の耳鼻咽喉科学の講義で受けた記憶のノートには、船長さんには舌癌が多発すると書かれてある。
当時の船長さんはマドロスパイプの愛用者が多く、パイプが舌の同じ部分にたえず当たるための器械的刺激が発癌の原因だと教わった。今、考えるとタバコの発癌性がその原因であることは明白だ。当時は医学会もタバコに関しての知識が希薄だったのだろう。
代表的なタバコ病である喉頭癌では、喫煙者は非喫煙者の40倍のリスクがあるという。タバコを吸いながらノドの病気を心配するのはナンセンスもよいところだ。
タバコ煙は毒蛇 首に巻き付き
             命を絶つ
 次号に続く
          2012年8月1日
 矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮