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第35話「耳鼻咽喉科疾病と煙草の害」
 受動喫煙防止条例・禁煙条例を全国に先駆けて公布した松沢氏の行動力は賞賛に値する。
然し、思想家にして教育者の吉田松陰(1830~1859)が、「我、酒ものまぬ、煙草ものまぬ。のまぬどころか、我、煙を最も憎む」、という嫌煙論を幕末の昔すでに唱えている事はあまり知られていない。私のかってな想像だが、松陰の松下村塾(幕末に長州藩士吉田松陰が講義した私塾)では屋内、敷地内全面禁煙であったろう。

松下村塾の写真 
松下村塾 2010年10月19日撮影
話を喫煙と耳鼻咽喉科疾病の関連性にもどす。
タバコとは一見無関係に見えるが、家族の喫煙が幼児の治りにくい中耳炎のリスクファクターとしてあげられている。こどもの中耳炎は代表的な受動喫煙によるタバコ病だ。私は中耳炎のこどもさんを診察する時に必ず両親の喫煙の有無をカルテに記載する。
喫煙者を両親にもつ乳幼児の中耳炎が治りにくいことは、日々経験している事実だ。喫煙者の両親は必ず、「こどもの前ではタバコをすわないようにしています」、と言うがこれは言い訳にはならない。
1本タバコを吸うと2時間から3時間、その喫煙者の呼気にタバコの有害物質がはいっているからだ。又、換気扇、空気清浄機も効果はない。
アイルランドの統計では、幼児の難聴の75%が受動喫煙によると言われている。
喘息児の両親が喫煙者であると、思わず声を大にして禁煙を指示してしまう。
嗅覚障害、味覚障害も又、タバコ煙のシアンカ水素によると言われている。嗅覚、味覚は人生を楽しむための大切な感覚だ。嗅覚・味覚異常は料理の微妙な味を楽しむ事が出来なくなる。腐敗臭も分からずに、腐った食物を食べてしまうこともあるだろう。火事の煙の臭いもわからずに、逃げ遅れるかもしれない。
又、高齢者の難聴も、喫煙、受動喫煙が加齢による内耳の変化に拍車をかけるという。
年間の死亡者数は、アスベスト 900人、交通事故 6,800人、受動喫煙による死亡者数は19,000人~3,2000人に達すると推定されている。
尚、受動喫煙に起因する疾病の詳細は文末に記載されている長谷章氏(長谷内科医院院長・藤沢市タバコ対策委員長)提供のグラフを参照して頂きたい。

“喫煙の健康被害は自己責任”と、いう理論は成り立たない。喫煙は関係ない家族、周辺に害をまき散らすからだ。
喫煙の健康害に関する限り、自己責任の理論は、離れ島で一人暮らしする場合にのみ許されることだろう。


タバコの悪臭はを曲げ、タバコ毒は内蔵を破壊する


後記


藤沢医師会の私の親友である長谷章氏が藤沢市耳鼻咽喉科医会で講演したスライドを院長余話のこの項の最後にのせる。掲載許可は長谷氏から受けてある。ご参考にして頂きたい



          2012年9月1日
矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮


耳鼻科医が知るべきタバコの知識 長谷章 医学博士
神奈川県が全面禁煙条例案を発表
受動喫煙によって起こる病気
脱タバコ社会の実現に向けて
公衆の場での屋内喫煙を一時禁止したら心筋梗塞の発生が減少
タバコの煙の種類
タバコ煙の粒子相物質とガス相物質
粒子相、ガス相両方に含まれる成分
8時間の受動喫煙によって吸収される量は・・・
日本は脱タバコ社会をめざそう!