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第64話「ハクビシン
 
檻に捕獲したハクビシン
 ノンフィクション作家久田恵氏の「ハクビシン君とご対面」と題するエッセイを、平成24年12月14日の朝日新聞で目にした。同氏が夕暮れの住宅街で、「ハクビシンの電線渡り」を目撃し、“アレハ、ナンダ!”と、あっけにとられて眺めていた様子だ。私とハクビシンの出会いはそんなのんきな顛末ではない。
3年程前、夜になると、我が家の天井裏を激しく走りまわる音がする。
ケタタマシイ音だ。初めのうちは大きなネズミでもいるのかなと思っていたが、音があまりに大きいので心配になってきた。懇意にしている電気屋さんが屋根裏に入り調べてくれた。ハクビシンの糞が大量に落ちていて、壁に孔が開いているという。多分、ハクビシンが天井裏に出入りしているのだろうとの指摘だ。ハクビシンが屋根裏の電線を嚙むと漏電する危険がある。早く駆除する必要があるとの助言だ。
私は、ハクビシンという動物を知らなかった。そこでゆかり副院長がハクビシンについて調べた。
ハクビシン(白鼻芯・日本に唯一生息する外来種のジャコウネコ科の哺乳類で、名前の様に鼻筋に白い線があるのが特徴)は、夜行性で性格がどう猛。最近、西鎌倉あたりに大量に生息して、藤沢周辺にも移動してきているという。ハクビシンを捕獲する専門業者もいるが、先ず、市役所に相談するようにとのアドバイスを受け、藤沢市役所に電話して捕獲用の罠(大きい鼠捕りのような物)を数個借りて庭に設置した。最初、餌として仕掛けた果物にはかからなかったが、1週間後にキャラメルに変えたら捕獲に大成功。
こわごわ、檻の中にいるハクビシンにカメラを向けたら、歯をむき出して威嚇された。 こんな動物が屋根裏から居間に入って来たら我が家の愛犬などひとたまりもなく殺されてしまうだろう。胸をなでおろした。
直ぐに市役所(環境部 環境保全課)から係の人がとりに来てくれた。市役所の親切な応対には感謝する。
ところで世間には多様な人がいる。藤沢医師会にハクビシンを赤ちゃんの頃からペットにして可愛がっている女医さんがいる。驚きだ。

 
女医さんのハクビシン(入浴中)
又、やはり医師会の友人が、道に倒れていた子狸を自宅に連れ帰り、介抱している内に、狸が可愛くなり同じ布団の中に入れて寝るようになったという。
狸の恩返しという古典落語がある。博徒に命を助けられた子狸が恩返しのために、サイコロに化けて恩人を博打で儲けさせる話だ。その医師に助けられた狸の恩返しは、命の恩人へ疥癬(皮膚病)を感染させたことだった。ひどい狸の恩返しだ。医師会で大笑いした。



         2015年2月1日
矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮